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112 新しい関係

last update Date de publication: 2025-09-03 17:00:50

「その為に、あおい荘のような施設が必要なの。一昔前なら、自分の親を施設に預けるなんて、とんだ親不孝者だ、なんて言う人も多かった。でもこれだけ高齢化が進んで、認知症の患者が増えた今となっては、それを受け入れる社会にも限界が来てしまったの。核家族化も晩婚化も進んでいる。個人で背負うには、あまりにも負担が大きすぎるの」

「それは分かりますです。ここに来た頃の節子さんを安藤さんが見るなんて、とても出来るとは思えませんです」

「節子さんだけじゃないわよ。例えば、寝たきりになった人のお世話だってそう」

「身体介護……ですか」

「ええ。私たちは仕事で、決められた時間にだけ従事してたらいい。特養(特別養護老人ホーム)に行けばよく分かると思うけど、ああいった施設では、二時間から三時間おきに、オムツの交換があるの。あと、体位変換もね」

「……」

「家で家族の人が、自分の生活も維持しながら出来ると思う? それも一日二日じゃない、ずっとよ

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  • 【完結】あおい荘にようこそ   204 未来に向かって

     更に時は流れて。 6月中旬のある日。 今日はあおい荘に、新しい入居者が入ってくる。 入居者の名前は山吹たつ枝。あおいが直接面談した人だ。 今日の日を迎えるまでに、あおいは以前つぐみが使っていた居室に、持ち込まれた家具を入れて万全の態勢を整えていた。 特養(特別養護老人ホーム)との二足の草鞋〈わらじ〉は大変だったが、あおい荘での業務が疎〈おろそ〉かにならないよう、日々全力で向き合っていた。 山吹が一日も早くあおい荘に馴染めるようにと、考えつく限りのことをやっておきたい、そう思っていた。山吹は自分が決めた人、失敗は許されない。その熱意が周囲にもひしひしと伝わっていた。 そんな彼女の姿に、直希もつぐみも嬉しそうだった。あおいや菜乃花が自らの仕事に誇りを持ち、挑んでいく。それは彼らがずっと望んできたことだった。菜乃花の面談した入居者も、近い内に入居することが決まっている。 あおい荘に今、新しい風が爽やかに吹いていた。若いスタッフと、新しい入居者によって。 直希が望む未来の姿が、そこにはあった。 * * * 新しい入居者を迎えるにあたって、あおい荘では引っ越しが続いていた。 一階の空き部屋は、つぐみが使っていた部屋の一室だけ。二階には直希とつぐみが住んでいる。 旧つぐみの部屋に山吹が入ることになっているが、次の入居者が入ってきた時、その一人だけが二階に住むのはバランスが悪い。ここで一度、居室のシャッフルをしてみてはどうだろう、そう言った直希の提案を受け入れてのものだった。 二階には栄太郎夫妻と西村、節子がやってきた。直希と同じ階になった節子は大喜びで、度々直希の部屋を訪れるようになった。栄太郎たちもつぐみの容態を気にして顔を出し、いつも直希の部屋で話に華を咲かせていたのだった。 そしてもう一つ。直希の報告にあおい荘が揺れた。「東海林医院」の転居だった。 * * *「それはつまり、東海林医院があおい荘に来る、ということなのかね」

  • 【完結】あおい荘にようこそ   203 最後のサプライズ

     あおいの報告が終わると、直希はマイクを手に続けた。「それでなんですが、これ以上の機会は恐らくないと思いますので、最後にもう一つ、皆さんにご報告したいことがあります」 その言葉に、未だ興奮冷めやらない入居者たちが、再び直希に視線を向けた。「なんだ直希、まだ何かあるのか。小山さんが歩けるようになった、菜乃花ちゃんと兼太くんが付き合うことになった。あおいちゃんが新しい一歩を踏み出した。正直もうお腹いっぱいなんだが」 栄太郎の言葉に苦笑しながら、直希の隣につぐみが立つ。「今ここには、俺たちにとって大切な皆さんが集ってくれました。だから……ここで伝えるのが一番いいだろう、花見が始まった時に、つぐみと話してたんです」「ダーリン、それってまさか」 明日香の言葉に照れくさそうにうなずき、直希が言った。「つぐみのお腹に、その……俺たちの未来が宿ってくれました」 直希の言葉に、辺りが水をうった様に静まり返った。「あ……え? 皆さん?」「直希、言いたいことは分かるけど、変化球過ぎるわよ」「そうなのか」「そうよ、ふふっ……私、妊娠したようです」 つぐみが頬を染めてそう言った。「三か月に入ったばかり、まだまだ体調も不安定なんですが、私たちの元に来てくれた新しい命、大切に見守っていきたいと思ってます」「つぐみには、安定するまでは仕事を抑えるように言ってます。ご不便をかけることもあると思いますが、どうかよろしくお願いします」 * * * つぐみの妊娠報告。 先程まで賑わっていた会場が、長い沈黙に包まれた。 あおいも菜乃花も、栄太郎に文江、東海林も、兼太までもが唖然とした表情で二人を見ている。「あ、あの……皆さん?」 その反応に直希が戸惑い、苦笑しながら頭を掻

  • 【完結】あおい荘にようこそ   202 明日への決意

    「あの、その……皆さん、今日は本当にありがとうございました。今回のお花見、私たちにとっては初めての企画となったイベントでした。色々と不備もあったと思いますが、何とか無事故で終わることが出来て、その……ほっとしてます」 マイクを手に、菜乃花が緊張した面持ちで締めの言葉を口にする。「このあおい荘が出来て一年、本当に色んなことがありました。楽しいこと、嬉しいこと。それに、その……辛いこともありました。 でも私は今、その全てに感謝したいと思います。そして、このあおい荘に出会えて幸せだと思ってます。 これからも皆さん、どうかよろしくお願いします。今日は本当にありがとうございました」 頭を下げると同時に、参加者たちから温かい拍手が送られる。 菜乃花はあおいと顔を見合わせ、照れくさそうに笑った。「ではここで、直希さんに最後の挨拶をしてもらいたいと思いますです」 そう言ってあおいが直希にマイクを渡す。突然マイクを渡された直希だったが、うなずくと皆の前に立った。「……今回の企画は、あおいちゃんと菜乃花ちゃんに全て任せました。彼女たちにとって初めての大仕事なので、正直この日を迎えるまで、俺もかなり気になってました。 心配はしてませんでした。彼女たちはこの一年で、本当に頼れるヘルパーに成長してくれました。二人によく言ってるのですが、技術は後からついてくる。今出来なかったとしても、心配しなくていい。でも二人には、入居者さんに対する思いがある。それがある限り、彼女たちは世界一のヘルパーなんだ、そう思ってます。 つぐみに支えてもらいながら、何とか立ち上げることが出来たこのあおい荘。そこにこんなに早く、未来の希望が入って来てくれました。その二人の成長が見たい、そう思い、今回の企画となりました。 あおいちゃん、菜乃花ちゃん。本当にありがとう。最高のお花見だったよ」 直希の言葉に、入居者たちから二人に拍手が送られる。「この4月から、菜乃花ちゃんは介護の勉強をす

  • 【完結】あおい荘にようこそ   201 届いた想い

     興奮が続く中、花見大会は始まった。 あおいと菜乃花が慌ただしく場内を動き回り、皆に酌をしていく。 気になった直希が立ち上がろうとするが、その度に「今日はまかせてくださいです」と何度も断られた。 落ち着かない直希につぐみは、「任せたのは直希でしょ。ほら、もっと落ち着いて。私たちも楽しみましょう」と笑った。 今回の花見大会。直希に任されたあおいと菜乃花は、企画の段階から入居者に協力を申し出ていた。 施設での催しごとに利用者も協力する。そこに必ず意義がある、そう思っての行動だった。 今回は女性入居者に協力してもらった。次の企画の時は男性陣に依頼するつもりだった。 料理は菜乃花と小山、文江が担当した。 山下は「桜」にまつわる映画の紹介をする。 そして節子は「花見」そのものについて語った。「花見の起源には諸説あるんじゃが、奈良時代には始まっていたとされている。もっともその頃は貴族の間での風習で、花も桜ではなく梅だったようさね。 それが平安時代になって、桜へと変わっていった。その頃から桜は、日本人にとって特別な花となっていった。 花見と聞いて有名なものと言えば、太閤秀吉の「醍醐の花見」や「吉野の花見」と言ったところかね。その頃には桜というもんが、武士の生き様、哲学に重ねられていたとも言える。 桜の如く、散り際も美しく……そう言う意味では、果たして私らはこの場にふさわしいと言えるかどうか」 その言葉に、入居者たちから笑いが起こる。「いやいや節子さん、それに皆さんも。そこは笑っちゃいけないところでしょ」「じゃが」 節子が直希の言葉を遮る。「今日の小山さんを見てるとね……老いてなお生に執着し、青年の様に前を向き、日々を戦い生きていく。そんな生き方もありと思うさね」 節子がそう言うと、入居者たちから力強い拍手が沸き起こった。「生涯青春。あおい荘に住む私たちは、これでいこうと思うさね!」 節子が笑顔で、直希

  • 【完結】あおい荘にようこそ   200 理想を現実に

     4月最初の日曜日。花見大会当日。 あおいと菜乃花は、朝から大忙しで動き回っていた。そんな二人を見て、直希もつぐみも手伝わせてほしいと申し出たのだが、二人から「今日は私たちに任せてください」と言われ、手持ち無沙汰な状態で時間が来るのを部屋で待っていた。 何が始まるのか、どんな花見になるのか。二人は知らされていない。 そのことに一抹の不安もあった。特に直希に至っては、「大丈夫かな、ちゃんと準備、出来てるかな」と、何度もそう言って覗きに行こうとした。「二人にまかせたんでしょ? だったらもっと信頼してあげなさい。でないと今日まで頑張ってきた二人に失礼でしょ」 そうつぐみに諭され、「そうだよな」と苦笑して座り直すのだった。「自分で動いた方がずっと楽だ、そんな風に思ってるんでしょ」「つぐみお前……どれだけ俺の心、覗けるんだよ」「直希が考えそうなことよ。こんなことぐらい、あおいや菜乃花にだって分かるわよ」「ははっ」「でもね、直希。それじゃ駄目なのよ。確かに不安だと思う。うまくやれるかな、心細くないかなって思ってると思う。でも、それでも……それじゃいつまで経っても、二人は成長しない。例え失敗することがあったとしても、それも含めてあの子たちの経験になるの。私たちはね、直希。ある意味あの子たちの成長の邪魔をしてきたのよ」「確かに……そういうところ、あるかもな」「そうなの。だからね、直希。心配だと思うけど二人のこと、応援してあげましょ。今日はそれだけでいいのよ」「……分かった、分かったよつぐみ」 そう言って笑い、つぐみの手を握った。「体調は?」「大丈夫。今日も暖かくなりそうだし、問題ないわ」「そうか。じゃあ二人のおもてなし、楽しみに待ってようか」 * * * しばらくして、扉がノックされた。

  • 【完結】あおい荘にようこそ   199 託す思い

     時は流れて。 直希とつぐみの結婚式から、二か月が過ぎた。 * * * 結婚式を終えた直希とつぐみは、クリスマスに直希が貰ったチケットで二泊三日の新婚旅行に行き、そして新居をあおい荘の二階に移動したのだった。 元の直希の部屋はスタッフルームとして開放し、あおいと菜乃花はこの日、来週に迫った花見大会の最終打ち合わせの為、ここに集っていた。 あおい荘で初めて行われる花見大会。直希の強い要望で、企画も含めて全てあおいと菜乃花が任されることになっていた。「当日は大変だと思うけどよろしくね。何か困ったことがあったら、いつでも声をかけてくれていいから」「はいです。ですがそうならないよう、菜乃花さんとしっかりすり合わせをしておきますです」「直希さんとつぐみさんが安心して楽しめるよう、私たちもがんばります」 そう言った二人の笑顔に、直希とつぐみは顔を見合わせうなずきあった。「それでね、あおいちゃん菜乃花ちゃん。花見を二人にお願いしたいってつぐみに言った時に、もう一つ話していたことがあるんだ。 俺たちはこれからのあおい荘について、ずっと考えていた。タイミング的にも今が一番いいと思って……今日はそのことを二人に相談したいと思うんだ」 その言葉に、あおいと菜乃花がつぐみに視線を移した。つぐみは二人を見つめ、穏やかに微笑みうなずいた。「実はあおい荘に、新しい入居希望の方がいるんだ」「新しい入居者さん……」「年末に話があって、色々と手続きを進めていたの」「また賑やかになりそうですね」「それでなんだけど、二人にお願いしたいことがあるの」「私たちにですか? 勿論ですつぐみさん、私たちに出来ることなら言ってほしいです」「私も、出来る限り協力します」「ありがとうあおいちゃん、菜乃花ちゃん。こういう時、まずは入居者さんの健康状態や既往歴、家族構成とかの資料を集めるところから始めるんだ

  • 【完結】あおい荘にようこそ   102 ADLの維持の為に

    「今のところは……」「ええ。今のところは、ね。山下さんの尿意はいつも通りだった。いつもなら普通に間に合って、失敗することもなかった。でも今日、そのタイミングが少しだけど遅れてしまった。こういうことはね、意識していないと、繰り返すようになっていく。それに……そのこと自体もだけど、心配なのは山下さんのショックの度合いよね」「はいです。山下さん、泣いてましたです。それに私、山下さんから誰にも言わないで欲しいって言われましたです。特にその……直希さんには

  • 【完結】あおい荘にようこそ   101 ナースコール

     突然のナースコールに、食堂にいた直希とあおいの表情が変わった。「山下さんのお部屋からです」「山下さん……多分押し間違いだと思うけど、この前のこともあるし……あおいちゃん、悪いけど行ってきてもらえるかな。これ、鍵ね」「はいです、行ってきますです」「俺が行きたいところなんだけど、節子さん、離れてくれそうもないし」「大丈夫です、任せて下さいです」「頼むね。それと……前みたいなことになって

  • 【完結】あおい荘にようこそ   099 西村さんと生田さん

     直希の思いを聞いた、あおいと菜乃花。 二人の心に、これまで以上に強い決意の火が灯された。 私たちを信じてくれている直希さんの為にも、全力でこの問題に立ち向かっていこう。 二人の思いは、言葉にせずとも入居者たちにも伝わり、皆が一丸となって、あおい荘を守っていくんだという気持ちになっていった。 山下の症状は、幸いあの日の一時的な物で済んでいた。次の日にはいつもの山下に戻っていて、あおいは胸を撫でおろしたのだった。 しかしあおいの心に、介護の世界の厳しい現実を見た衝撃は深く残っていた。 私

  • 【完結】あおい荘にようこそ   098 引きずりこまれるADL

    「男前が上がってきたわね、直希」 食堂で節子とテレビを観ている直希に向かい、つぐみが意地悪そうに声をかけた。「そういうつぐみこそ、可愛い顔してるな」 互いの目の隈を見合い、二人が笑った。「お互い、いい感じの顔になってきたな」「そうね。流石に寝不足だわ、私も」 そう言って小さなあくびをするつぐみを見て、直希が穏やかな笑みを浮かべた。「何?」「あ、いや……お前がそんな無防備にあくびするなんて、ここが本当にお前の

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